抄録
セントポーリア葉を急激に冷却すると細胞内膜系の損傷やクロロフィル蛍光の消失がおこり、やがて細胞死にいたる。しかし冷却前後の速度差が小さいときには冷却境界の外側だけが過敏化しこの部分を低温で処理すると黄色斑となるが、はじめから冷却されていた部分は無傷で残る。一方、冷却速度を毎分1℃かそれより遅くした場合には、5℃まで冷却しても傷害は起こらず、光合成系蛍光の光化学的消光は増加するものの、フラッシュによるPlastoquinon A還元 (Fm') の大きさは変化しなかった。毎分1℃の速度で冷却し5℃に達した直後に常温にもどした葉は低温傷害を受けやすいが、5℃で10分おいてから常温にもどした場合には葉は正常に光合成を行い、急激に冷却しても傷害を起こさなくなっていて、5℃におかれた10分の間に低温耐性葉に変換していることが分かった。セントポーリアは熱帯原産の植物で、細胞活性全般が低温で傷害を受けると考えられてきたが、ここで得られた知見はセントポーリアには急激な温度低下を感知し反応する機構があり、それが反応したときには細胞破損が誘発されるが、それ以外の細胞活性は低温傷害をうけないことを示している。