抄録
アブシジン酸(ABA)は、種子形成時において種子貯蔵物質の合成を促進し、種子形成後は種子の休眠を保つ働きをしている。このような、ABAの生理作用はABA量とABAのシグナル伝達の相互作用によって調節されている。その相互作用の中心的な制御機構のひとつがABA生合成のフィードバック制御である。ABA生合成のフィードバック制御機構を明らかにするために、シロイヌナズナのABA非感受性変異体abi3, abi4,abi5を用いて、種子のABA量を調べた。その結果、abi3欠失変異体種子でABAの増加が見られた。さらに、ABI3タンパク質には3つの保存領域(B1, B2, B3)があり、それぞれのドメインのアミノ酸置換変異体の種子におけるABA量を調べた。B2,B3ドメインに変異を持つabi3変異体においてABA量が増加していたが、B1ドメインに変異を持つものでは野生型と比べて有意なABA量の増加は見られなかった。また、abi5変異体においても、乾燥種子でABA量が増加していた。一方、abi4変異体では、乾燥種子のABA量に変化はなかったが、種子の吸水過程において、ABA生合成遺伝子の発現が顕著に減少していた。これらの結果から、種子におけるABA生合成の正の制御因子としてabi4が関与しており、負の制御因子としてabi3,abi5が関与していることが示唆された。