抄録
強光応答に関する変異株を単離することを目的とし、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803について、強光条件下で蛍光カメラを用いてクロロフィル蛍光挙動を測定し、野生株と異なる挙動を示すΔsll1961を単離した。この株について、弱光および強光下で24時間培養後、パルス変調蛍光法を用いて光合成状態を調べた。強光培養したΔsll1961株では、励起光照射直後の蛍光強度の上昇が遅く、光化学系Iの電子伝達活性が上昇している可能性が示唆された。そこで、弱光および強光条件下での培養24時間後に、液体窒素温度における蛍光スペクトルを用いて光化学系複合体の量比を調べた。弱光から強光に移すと、野生株では光化学系IIに対する光化学系Iの比が減少したが、Δsll1961はこの減少が抑えられた。以上の結果から、Δsll1961は強光下で光化学系IIに対する光化学系Iの量を減少させることができない株であることが明らかとなった。強光下で光化学系量比を調節するメカニズムについては全く知られていないので、この株を解析する事によってこのメカニズムを明らかにしたいと考えている。Sll1961はその配列の相同性から、転写調節因子をコードしている可能性が考えられ、現在、強光培養した野生株とΔsll1961についてDNAマイクロアレイを行なうことにより、そのターゲットを探索中である。