抄録
[序、実験内容]Acaryochloris marina (A. marina)の光化学系1(PSI)はクロロフィルdを主要構成色素としている。我々は、A. marina PSIの励起エネルギー移動と電荷分離ダイナミクスをフェムト秒過渡吸収測定(励起波長630 nm)により調べ、クロロフィルaが主要色素であるPSIとの差異を報告してきた(昨年度の本年会等)。 本研究では、より詳細な励起エネルギー移動のダイナミクスを知り、かつ、励起移動の変化が電荷分離ダイナミクスに与える影響を理解するために、730nmの励起光を用いてA. marina PSIのフェムト秒過渡吸収測定を行った。また、比較のため、700nmの励起光を用いてspinach PSIのフェムト秒過渡吸収測定も行った。電荷分離ダイナミクスは、P740還元型サンプルとP740酸化型サンプルの差から見積もった。[結果]A. marina PSIにおける励起エネルギーの平衡化には3-5ピコ秒がかかるが、この時間領域でも励起波長に関わらず(電荷分離による)励起状態の実質的減衰が見られた。また、電荷分離中間体由来の過渡的な褪色信号(負の吸収変化)が680 nmに現れるが、これは、励起波長に関わらず、電子供与体クロロフィルP740の褪色より速く現れることがわかった。