抄録
硝酸同化において、硝酸イオンは、硝酸イオン能動輸送体(NRT)によって細胞内に輸送され、硝酸還元酵素(NR)と亜硝酸還元酵素(NiR)によってアンモニアに還元される。NRT、NRおよびNiRの発現は窒素によって正負両面の制御を受けており、一般に硝酸イオンまたは亜硝酸イオンによって活性化され、アンモニア、グルタミンまたはその代謝産物によって抑制される。我々は植物の硝酸還元系の発現制御の機構を、相同組み換えによる遺伝子操作が可能なヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)を用いて研究するため、まずNR遺伝子のcDNAをクローン化した。RT-PCRにより、2つのcDNA断片が得られ、RACE法によってほぼ完全長のcDNAを得ることができた。それら相互の推定アミノ酸配列の相同性は80%であった。また、ヒメツリガネゴケのNRのアミノ酸配列は、高等植物のものと約56%、緑藻のものと約47%一致しており、系統樹では緑藻と高等植物の間に位置していた。培地の窒素条件をかえて、mRNAの蓄積量の変化をノーザン解析で調べたところ、NRの転写はNiRと共に硝酸イオン存在下で活性化され、アンモニア存在下で抑制されることが分かった。これらの結果は本質的には植物において報告されている結果と同じであり、ヒメツリガネゴケが硝酸同化の研究においても高等植物のモデルとなり得ることが示唆された。