抄録
葉におけるRubisco量の変動は、光合成機能、窒素経済と深い関わりを持つ。イネ葉のRubisco含量は、展開中の窒素栄養レベルにより大きく左右される。本研究では、イネ葉身を材料に、窒素栄養レベルとRubiscoの遺伝子発現の関係を探ることを目的とした。イネ(Oryza sativa L. cv. Notohikari)をその第8葉身の出葉直後から異なる窒素濃度(多、標準、欠)の培養液に移して栽培を続けた。第8葉身におけるRubiscoの合成量、rbcS , rbcL のmRNA量は窒素栄養処理に応答して速やかに増加し、窒素レベルによらず、両者共に処理開始の翌日には最高値を示した。そして、それらの値は窒素栄養レベルに従ったものであった。その一方で、rbcS 及びrbcL DNA量には、これらmRNAに見られた程の窒素栄養レベルによる差違は認められず、最高値を示した時のrbcS及びrbcL mRNAに対するrbcS及びrbcL DNAの量比は、窒素供給量が多いほど大きかった。以上の結果は、葉身の完全展開以前における窒素栄養レベルに応答したrbcS及びrbcL
mRNAの量的変動が、rbcS及びrbcLのテンプレート(DNA)量によって一義的には支配されていなことを示唆している。