抄録
我々は短い根を持つ新しい突然変異株SS93を単離した。この変異株では、根端のみならず茎頂のメリステムでも細胞列が乱れ、葉序および葉の形態の異常や花茎の帯化が観察される。ゲノム情報を用いた原因遺伝子の精密マッピングを行ったところ、原核生物のDNAポリメラーゼIのポリメラーゼドメインと、ヘリカーゼに保存されたモチーフの両方を持った単一ポリペプチドをコードする、4番染色体上の遺伝子に欠失変異が見つかった。このような構造を持つタンパク質はこれまでにショウジョウバエやヒトなどでみつかっている。ショウジョウバエのホモログをコードするmus308遺伝子の欠損株は、DNA鎖間架橋剤に対して高感受性になることから、MUS308タンパク質はDNA鎖架橋の修復に関与すると考えられている。
SS93変異株の表現型は分裂組織の形態異常を見せるfasciata(fas)突然変異株に類似している。FAS遺伝子は遺伝子発現を制御するクロマチン重合因子(CAF-1)のサブユニットをコードしており、これまでの動物での知見から、CAF-1はDNA修復および複製に関わると考えられているので、我々はSS93とfasの原因が部分的に重なっているのではないかと考えている。今後は、SS93における細胞分裂への影響の観察および発現の解析を行う予定であり、その結果についても報告したい。