抄録
夜間の呼吸がイネの乾物生産に与える影響を明らかにするため、夜温のみ異なる環境下で植物を生育させ(高夜温区 27℃、対照区 22℃、低夜温区 17℃)、個体の乾物生産量と個体のCO2ガス交換速度を栄養生長期と登熟期で比較した。昼温は 27℃、光条件は 1000 μmol m-2 s-1、相対湿度は 60%とした。
栄養生長期では、夜温の高い方が乾物生産量は増加した。光合成から呼吸を差し引いた個体当たりの1日における正味の同化量は夜温の高い方が大きかった。夜温が高いことは生育初期の葉面積の増加に関係していた。一方、低夜温区では乾物生産量は減少した。夜間の呼吸によるCO2の放出は抑えられたが、光合成の減少も大きく正味の同化量は減少していた。
登熟期については、開花 7日前(止葉完全展開時)から処理を開始し、高夜温区と対照区を設定した。その結果、乾物生産量には両区でほとんど差がなかった。登熟期でも夜温が高いと夜間の呼吸は促進されたが、光合成の増加量はそれよりも大きなものであった。これは、高夜温区では葉の老化が遅れ、生葉の葉面積が維持されることで個体の光合成速度の減少が小さかったためであった。このように夜温が高いことは最終的な乾物生産量には影響を与えなかったものの、呼吸の促進につながり、葉の老化の遅れが生葉面積の維持に関連するものであることが示唆された。