抄録
種子の休眠と発芽は種々の内的、外的因子により制御される。ジベレリン(GA)と低温処理(暗所、4℃)はいずれもシロイヌナズナの種子発芽に促進的に働く。我々は、これまでに活性型GAの生合成最終段階を触媒するGA 3-oxidase をコードする遺伝子の発現調節を詳細に解析し、低温処理後に同酵素をコードする AtGA3ox1 遺伝子のmRNA量が顕著に増加することを明らかにした。さらに、主要な活性型GA であるGA4 の内生量も低温処理により増加した。低温処理後に増加するGAの役割を推定するため、マイクロアレイを用い、低温処理依存的にジベレリンに応答する遺伝子群の同定を試みた。その結果、以前に同定された「明所、22℃においてGA に応答する遺伝子群」に加えて、新たなGA応答性遺伝子群の存在が示唆された。一方、低温処理後のAtGA3ox1 のmRNA は、低温処理を行わない場合と比較してより広範な細胞で検出されたことから、温度条件により活性型GAの分布が変化すると予想される。以上の結果は、シロイヌナズナの種子発芽過程におけるジベレリンの生合成とその応答機構は、異なる環境条件下で質的に変化することを示唆している。