抄録
ピリジンアルカロイドであるトリゴネリン(Tg)は,環境ストレスのシグナル,適合溶質,あるいは,葉の開閉運動にかかわるなど生理学的役割が報告されているが,この物質の生合成やその制御に関する研究は極めてすくない。コーヒーは,カフェインと共にTgを多量に蓄積する植物である。そこで,今回はコーヒー植物におけるTgの分布と,NADの分解で生じると思われるニコチンアミド(Nm)とニコチン酸(Na)からの生合成を検討した。Tg濃度は,コーヒー葉では若い時に高く,葉の伸展に伴い減少した。一方,果実では,成熟に伴い濃度が高まった。根におけるTg濃度は低かった。[14C]Nmと[14C]Naを組織に与えると,直ちにTgに放射能がとりこまれた。若いコーヒーの葉では,18時間後に,60%の放射能がTgに分布しており,残りは,NAD, NADP, NMN,CO2に見られた。Tgの合成は,緑色の果皮と種子で見られたが,生合成能は赤い成熟果実では低下した。これらの結果は,コーヒー植物では,Nm→Na→Tgの経路とNa,NmからNAD, NADPへのサルベージ経路があることが示された。一方,チャなどの植物では,Tg合成系はなく,Naグルコシドが生成することが生成された。