抄録
タバコ種間雑種(Nicotiana gossei Domin X N.tabacum L.)の下胚軸に由来する培養細胞(GTH4)は、親植物と同様、37℃で増殖し、26℃で致死する温度依存型細胞死を発現する。細胞死は26℃に移行後6時間以内で急速に進行し、以降は緩慢となる二相型を示し、72時間後でも約20%が生存する。一方、この細胞は嫌気条件で致死が著しく抑制されることから、酸素、特にそれに由来する活性酸素種(ROI)が細胞死に重要な役割を果たすことが示唆された。そこで、GTH4細胞を26℃に移行した後に発生するROIをO2-と過酸化水素について定量したところ、O2-は2時間後、過酸化水素は30分後をピークに一過的な増減を認めた。26℃の嫌気条件下において、O2-は2時間目のピークを示さず暫増し続け、他方、過酸化水素は好気条件よりも有意に低いピークを示した。このことから、 GTH4細胞も、他の細胞で認められるオキシダティブバーストが先行し、致死発現のシグナルとして作用しているものと考えられた。特に、過酸化水素はその増減の挙動と、SOD、catalase、NADPH酸化酵素の阻害剤投与実験などの結果からより重要な役割を果たすと示唆された。