抄録
植物体内の水の動態は実験手法が未発達であるため未だによく解析されていない。本研究ではポジトロン放出核種15Oを用いて生きた植物体内の水動態を非破壊状態で測定することを試みた。15Oは、半減期が非常に短いため(2分)、約30分で検出不可能となる。よって、同じ植物体を用いて何度も実験できることが本手法の大きな利点である。
実験試料としてダイズとコムギを用いた。1-2GBqの15O標識水(H215O)を根に与え、イメージングプレート(IP)を用いて植物体内の水分布について解析する一方、BGO検出器を用いて、ダイズは胚軸下の茎、コムギは葉の下部において15O標識水を経時的に検出し、流量の算出を試みた。
IPを用いた15Oの検出では、植物体内の15O標識水の分布像が得られた。しかし、植物体では試料の個所により厚さが異なるため、定量は困難であった。そこで、同一植物を用い、茎の同じ部位における測定値を比較した。その結果、水吸収量は光の強度に相関した。また、湿度が著しく高い場合では、水の吸収が著しく抑えられることがわかった。また、BGO検出器を用いて同じ条件で実験を繰り返したところ、IPでの実験と同様の結果が得られ、さらに経時的な水吸収を解析できた。しかし、BGO端子ではイメージが得られないため、IPとBGO検出器の両方を用いて、互いにデータを補完しながら実験を進めることが適当であると結論づけた。