抄録
植物には,二次代謝物質と総称され,個体の生命維持には必ずしも必須ではない成分を,特異的に,また時には大量に含んでいることがある.このような物質は従来,貯蔵物質または老廃物であるとされてきたが,動植物や微生物・昆虫等に生理活性のある複雑な構造の物質も数多く見つかっており,その機能が,他の生物個体との生物間相互作用を媒介する生理活性物質であるとする「アレロパシー仮説」が提唱されている.このような物質は,自然生態系においては,植生の遷移や特定種の優占・排除といった現象に関与している.また,このような物質が,絶滅危惧種や化石植物とされる古い植物で,一属一種的な珍しい植物に多く含まれていることは,進化の過程でそのような性質を持つ植物が生き残ってきた可能性がある.農業面では,合成農薬や殺虫剤を減らした環境保全型の農業に役立つ実用的な研究が進められている.
演者は農業環境技術研究所で,約20年にわたりアレロパシーの探索と作用物質の同定,および利用に関する研究を行ってきた.そこで,本シンポジウムでは,強い活性を示す植物,とくにムクナ,ヘアリーベッチ,ナタマメ,ヤムビーンなどの事例を紹介し,同定された生理活性の強い成分の構造と機能について簡単に紹介する.また,最近研究を開始した,侵入・導入植物に含まれる作用成分の同定とその化学生態的な意義,およびアレロパシーを応用した農業とその展望について紹介する.