抄録
多くの高等植物のシュートは重力に抗って成長する.シロイヌナズナの花茎も負の重力屈性を示し,横倒しにすると約90分で垂直に立ち上がる.その分子機構を理解するため,我々は多くの変異体 sgr(shoot gravitoropism mutants)を単離し研究を行ってきた.これまでの一連の解析から,花茎の内皮細胞層が重力感受部位であることが強く示唆されている.内皮細胞ではアミロプラストが細胞の底面付近に分布しており,これが平衡石として機能すると考えられる.電子顕微鏡観察から,底面付近に分布するアミロプラストは,薄い細胞質領域と液胞膜に取り囲まれた状態で中心液胞の内側に存在することが判明した.一方原因遺伝子が液胞関連因子であるsgr変異体においては,アミロプラストが中心液胞の内側に取り込まれず重力方向に沈降しないことが明らかとなった.このことから,アミロプラストと液胞の相互作用が,重力感受の最も初期の段階に重要であることが示唆される.そこで,重力刺激感受前後のイベントを生きた細胞内で捉えるために,横倒し顕微鏡システムを構築した.本シンポジウムでは,重力刺激を与える前後でのアミロプラストの挙動を野生型と変異体で比較した観察結果と,その時の内皮細胞の液胞のダイナミクスについて紹介したい.