抄録
トランスポゾンの転移活性や近傍遺伝子の発現制御では、可逆的に状態が変化するエピジェネティックな現象が知れている。アサガオでは、En/Spm類縁のTpn1ファミリーのトランスポゾンが自然突然変異の多くに関与しており、様々な花の模様に係わる変異体が園芸種として栽培されている。このうち「雀斑」は、非自律性のトランスポゾンであるTpn1が色素生合成に関与するDFR-B遺伝子に挿入した劣性変異であり、Tpn1の転移・脱離によりキメラ斑が形成されて絞り花を咲かせるが、転移が極端に抑制されて白色花のみを咲かせる個体(white variant)がしばしば現れる。このような個体では、Tpn1の内部配列の一部にメチル化DNAの増加が見られる。さらにアサガオには、その表現型と遺伝様式からエピジェネティックな遺伝子の発現制御が係わると思われる「覆輪」、「吹雪」などの優性変異や、「刷毛目絞り」と呼ばれる劣性変異も存在する。このうち吹雪は、非自律性のTpn5の挿入を含むDFR遺伝子領域の複雑な構造変化が一因となっている。吹雪変異体の絞り模様からは、DFR-B遺伝子が可逆的に発現状態を変化させることが示唆される。トランスポゾンが係わる変異を中心に、アサガオの模様に見られるエピジェネティックな種々の遺伝現象について議論する。