日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
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ザゼンソウの体温制御システム
*伊藤 菊一
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p. S5

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抄録
一般に植物には体温維持機能はなく、その体温は気温変化とともに変動すること考えられているが、植物の中には、自ら発熱しその体温を調節できるものが存在する。早春まだ雪の残る時期に花を咲かせるザゼンソウ(Symplocarpus foetidus)は、氷点下を含む外気温の変動にも関わらずその発熱部位である肉穂花序の体温を20℃内外に維持する能力を持つ発熱植物である。我々は植物界では例外的ともいえる恒温性を有するザゼンソウの体温制御システムに関する解析を進めている。これまでの研究から、温度センサー機能を持つ肉穂花序は外気温を直接認識するのではなく、外気温の変化を肉穂花序自身の温度変動として認識していることが明らかになっている。また、肉穂花序には、温度変化により誘導されるほぼ60分を1周期とする規則的な体温振動現象が存在し、このような時間軸に依存した体温振動機構が本植物の体温制御システムに密接に関与していると考えている。また、肉穂花序における体温振動の誘導に必要とされる温度変化の閾値は0.5℃程度と見積もられ、発熱部位である肉穂花序における鋭敏な温度応答特性が明らかになった。さらに、肉穂花序温度の時系列データを詳細に解析した結果、その体温変動には典型的なカオス性が存在することが判明し、その体温制御システムは一連の数理モデルを用いた解析が可能であることが示唆された。本研究は生研機構基礎研究推進事業の支援で行われた。
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© 2003 日本植物生理学会
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