抄録
葉緑体ゲノムにコードされるYcf4は、光化学系I複合体の分子集合に必須なタンパクである。しかし系I複合体の複雑な分子集合機構にYcf4タンパクがどのように関与するかは不明である。本研究では緑藻クラミドモナスのycf4遺伝子に部位特異的突然変異を導入し、系I複合体の分子集合に影響の出る変異株の作成を試みた。これまでにYcf4のN末端側から179と181番目のグルタミン酸を両方とも電荷を持たないグルタミン、もしくは側鎖が小さいアラニンに置換した株(E179/181Q, E179/181A)を作出した。E179/181Q株は光独立条件で生育できなかった。ウェスタン分析を行うとYcf4は野生株とほぼ同量蓄積していたがPsaAはほとんど検出されなかった。一方E179/181A株は弱光下では光独立的に生育できるが強光下では生育できなかった。Ycf4とPsaAは蓄積量が約30%に減少していた。次に各変異株の系I複合体の存在状態をショ糖密度勾配超遠心法を用いて調べた。E179/181A株には量は減少しているが正常な系I複合体が存在していた。しかしE179/181Q株に極微量存在した系Iタンパクは正常な複合体を形成していないと思われる画分と、Ycf4が存在する分子量の大きな画分に分離された。後者は分子集合中間体と考えられ、この変異が系Iの分子集合を初期の段階で停止させたと思われる。