抄録
細胞内に一個の葉緑体しか持たない単細胞藻類は細胞分裂と葉緑体分裂が連動するため、細胞分裂期には光合成活性が低下し、細胞分裂が止まると葉緑体も成熟して光合成活性も上昇すると考えられる。この過程を調べるため、葉緑体を一つしか持たない単細胞藻類であるクロレラを有機栄養存在下・暗所で培養し、その増殖に伴う光合成色素類の変動をHPLCにより解析した。また、この変動に伴う光合成活性変化を低温ケイ光、およびP700量の測定によって解析した。(1) HPLCによる色素分析により、Chl aが酸化されたと思われるChl a誘導体が2種類検出された。これらは細胞増殖期に多く蓄積し、増殖停止期(定常期)には減少した。(2) 液体窒素温度におけるChl aの蛍光は、増殖期初期ではF685が主で、増殖が進むにつれてその蛍光収率は低下し、定常期ではF725が主となった。(3) 増殖期初期にはP700は殆ど検出されない。増殖が進むにつれてP700が形成され、Chl a/P700の比は約100になる。しかし、定常期ではその比は約300になった。(4) 以上の結果から、葉緑体の分裂期には、クロロフィルの膜への組み込みが正常に行われず、そのため光合成活性が著しく低下すると推定された。