抄録
植物がオゾンに暴露されると、体内で活性酸素を生じ、障害を引き起こすことが知られているが、詳細な機構は未解明である。我々はオゾン感受性シロイヌナズナ突然変異体を用いて植物の環境ストレス応答機構の解明を目指している。これまでに、オゾン感受性突然変異体oji1で、ジャスモン酸に低感受性であるためにオゾン暴露時におけるエチレン生成量が多いことから、オゾンによる傷害に深く関与するエチレンの生合成が、傷害の防御に働くと考えられるジャスモン酸によって抑制されていることを明らかにした。また、0.2 ppmオゾン暴露時のジャスモン酸含量は、4 時間で野生型、oji1共に最大値を示したが、oji1は野生型よりもその値がかなり高いことがわかった。一方、オゾン暴露時に誘導され、傷害を促進するといわれているサリチル酸を測定した結果、オゾン暴露時のサリチル酸含量はoji1と野生型で共に上昇したが、顕著な差は見られなかった。また、サリチル酸誘導性遺伝子 (AtPR-1) の発現量は、オゾン暴露開始後12 時間までは、野生型とoji1で差は見られなかった。これらの結果、及びoji1と野生型のマイクロアレイによるオゾン暴露時の網羅的遺伝子発現解析の結果を合わせ、オゾンによる傷害発現におけるジャスモン酸シグナル経路について、サリチル酸・エチレンとの相互作用を中心に考察する。