抄録
ABA応答性を示すコムギEm遺伝子プロモーターはヒメツリガネゴケ (Physcomitrella patens) においてもABA依存的に転写活性を増大する。我々はヒメツリガネゴケからシロイヌナズナABI3、あるいはトウモロコシにおける相同遺伝子VP1 (以下ABI3/VP1)と相同性を示すタンパク質(PpABI3)遺伝子を同定した。PpABI3はABI3/VP1の保存領域B1, B2およびB3ドメインを有し、このうちB3ドメインではABI3/VP1とアミノ酸レベルで60%以上という高い相同性を示したが、B1およびB2ドメインにおける相同性はB3ドメインに比べて低く、高等植物ABI3/VP1相同タンパク質間で絶対的に保存されているアミノ酸においても置換が見られた。
オオムギ糊粉層を用いた一過的発現系では、ABI3/VP1とbZIP型転写因子であるオオムギABI5 (HvABI5)の共発現はABA非存在下におけるEmプロモーターの転写活性化に十分であった。PpABI3とHvABI5の共発現も、その効果はABI3/VP1に比べて小さいものの、ABA非存在下で転写活性を増大した。一方、ヒメツリガネゴケ原糸体における一過的発現系では、ABI3/VP1およびPpABI3は単独でABA非存在化におけるEmプロモーターの転写を活性化したが、HvABI5との共発現実験ではABI3/VP1あるいはPpABI3いずれの組み合わせにおいても転写活性を低下させた。以上の結果から、コケおよび高等植物においてPpABI3とABI3/VP1は部分的ながらも機能的に相補できるが、ABI5は高等植物固有の因子であると考えられた。