抄録
シロイヌナズナ種子の休眠が低温刺激により打破されることに着目し、その低温依存的な休眠打破調節機構の解明に着手した。植物材料は、ABRCより供与されたシロイヌナズナのエコタイプの中で最も顕著に低温要求性を示すAbd-0系統を用いて、低温刺激が休眠打破に及ぼす影響を調査した。Abd-0種子は吸水した状態でも常温では発芽せず、休眠打破に一定期間の低温刺激を必要とする。しかし、その低温刺激による休眠打破はジベレリン(GA)合成阻害剤処理により阻害され、また低温刺激を与えない条件下でもGA添加のみで休眠打破が誘導されることから、低温刺激による休眠打破にGA生合成かそれ以前の生理過程が関与していることが示唆された。さらに、Abd-0種子は低温刺激を受けることによりGAに対する応答性が増加している可能性が示唆された。そこで、発芽におけるGAシグナル伝達の抑制因子であるRGL2のmRNAの蓄積を定量的RT-PCR法で調べたところ、常温で水浸漬したCol-0種子では吸水48時間後に大きく低下したのに対し、Abd-0種子では吸水後7日目でも高レベルの蓄積が維持されていることが確認された。
また、Abd-0の低温特異的な休眠性には遺伝性があり、その原因遺伝子は優性であることが確認された。現在、その遺伝子座の同定も試みている。