抄録
花弁老化の実行にはプログラム細胞死(PCD)の幾つかの過程が関与することが知られているが、その誘導メカニズムは明らかでない。これまでに演者らは、老化したアサガオ(Ipomoea nil cv. Violet)花弁でDNAのヌクレオソーム単位での断片化や核の断片化といったPCD特有の変化が生じることを確認した。さらに、開花直後から老化直前の各時期に採取した花にRNA合成阻害剤(アクチノマイシンD)を処理すると、花弁の萎れや核の断片化に対する抑制効果が経時的に減少することから、この期間中に花弁の老化誘導に関わる遺伝子が発現すると推定した。本研究では、cDNAサブトラクションとディファレンシャルスクリーニングを行い、推定した老化誘導期(開花直後から老化直前)の花弁で発現量が増加または減少している23種類の候補遺伝子を単離した。さらに、これらの遺伝子についてReal-time RT-PCRを行い、花弁におけるmRNAレベルの変化を詳細に検討したところ、機能未知の3種類のタンパク質や、システインプロテアーゼなど5種類の老化関連因子の他に、脂質転移タンパク質(LTP、SEC14)など4種類の細胞死関連因子をコードした遺伝子との相同性が高いアサガオ遺伝子の発現量が老化誘導期に著しく変化することを確認した。この結果、アサガオ花弁の老化誘導にもPCDの過程が関与している可能性が示唆された。