抄録
生物時計は普遍的な生命機能であり、人からバクテリアまでを対象とした広範な研究が展開されている。光シグナルと密接に関連した時計機構は高等植物にとってこそ重要な生命機構であることは疑いない。この十年間のシロイヌナズナを対象とした時計研究により、分子レベルでの知見が多く蓄積してきた。しかし、これらの研究のほとんどは分子遺伝学的アプローチに依存している。しかし今回我々は、シロイヌナズナ培養細胞(T87系)を用いて、時計分子機構解析の新しい可能性を切り開いた。まず、今までの植物体を用いた研究から時計関連因子として同定されているCCA1転写因子や、APRR1/TOC1五重奏因子の転写は、T87細胞において自律的概日リズムを刻むことを明らかにした。次いで、CCA1::LUCやAPRRs::LUC遺伝子導入培養細胞系を用いて、概日リズムの簡便なリアルタイム測定系を確立した。これらを用いて測定したリズムは、生物時計の三大特性である“光シグナル同調性(entrainment)”、“自由継続性(free-running)”、“温度補償性”の全てにおいて期待される性質を示した。また、時計の属性を特徴付ける古典的PRC(位相応答曲線)の解析も可能であった。これらの結果をふまえ、高等植物時計研究の画期的手法としての培養細胞系の可能性に関して考察する。