抄録
5'α,8'-Cyclo-ABA (CycloABA) は,アブシジン酸 (ABA) と比較して30倍のイネ第二葉鞘伸長阻害活性を示すが,その理由は不明である。CycloABAの生理活性が増大した原因として,ABAより (1) 取り込まれやすい,(2) 受容体に対する親和性が高い,(3) 代謝不活性化されにくい,などが考えられる。演者らはABAの構造活性相関に鑑みて (3) に注目し,イネとダイコンの幼苗を用いてCycloABAの代謝を調べた。
7日齢のイネ幼苗に投与したCycloABAは,ABAを投与した場合より約7倍多く残留した。ダイコン幼苗では,ABAの約65%が8'位水酸化によって代謝不活性化されたのに対して,CycloABAの場合は8'位水酸化による代謝物は検出されず,85%がそのままの形で植物体内に残留していた。CycloABAの主代謝物は,ABAの場合には副代謝物にあたる1位配糖体であった。以上よりCycloABAは,8'位水酸化酵素に代謝されないABAミミックであることが示された。CycloABAは,ABA代謝が関係する植物生理現象を研究するための有用なツールになるだろう。