抄録
近年、温暖化をはじめとする大規模な気候変動が世界各地で報告されている.この気候変動は,気候への依存度が高い果樹栽培に様々な影響をもたらしている.杉浦ほか(2007)では、日本で栽培されている主要果樹に共通して発芽・開花の前進が報告された.また、杉浦ほか(2004)ではリンゴとウンシュウミカンの栽培適地が気候変動に伴い北進することが示されている.
オウトウ栽培にも同様の影響が考えられ,さらに突発的な異常気象の影響による発芽から開花期の凍霜の増加や,開花期の低温による結実不良なども指摘されている.一方で,オウトウ栽培に直接的に影響を与える気温や降水などの具体的な気候要素と収量との関係は明らかにされていない.そこで,本研究ではオウトウの収量とそれに影響すると考えられる気候要素を比較し,具体的な関係性を明らかにすることを目的とした.
オウトウの出荷量に影響する被害は,凍霜,結実不良,実割れ,害虫や害鳥によるものが挙げられる.これらのうち,現在の栽培技術や労働力の面で対策が困難な結実不良を対象に分析を行った.調査対象地域は山形県東根市とした.結実不良の発生にはセイヨウミツバチの活動が大きく関係していると考えられる.Narcis Vicensほか(2000)によると,セイヨウミツバチの訪花活動は,気温に大きく依存し,訪花活動は気温が12-14℃以下で低くなることが知られている(Free 1993).愛知県農業総合試験場(2009)によると,訪花適温は18-25℃であり,夜間および降雨があるときには活動しない.そこで,開花期間の日中6時から18時を対象として,活動の条件を満たす時間を訪花活動時間とし出荷量と比較した.
セイヨウミツバチの訪花活動時間と出荷量の間には強い正の相関関係(r=0.767)がみられ,有意水準α=0.01において有意であった.訪花活動時間に対する気候要素の影響を調べた結果,活動時間を短くしている要因主には低温と降雨であることがわかった.特に,気温が15℃以下となる時間が,ミツバチの活動時間に大きな影響を与えていた.開花期間の低温がミツバチの活動を介して結実不良を引き起こし、それが出荷量に大きく影響すると考えられる.
今回の分析では,低温がミツバチの訪花活動を制限する大きな要因であると考えられたが,一方で,25℃以上の高温による活動時間の短縮も一部でみうけられた. 25℃を超えるとミツバチの飛来数は増加するが,訪花活動は低下するとされている.低温と比較すると影響の大きさはまだ小さい.しかし,温暖化に伴い,高温の影響による訪花活動時間の短縮も今後十分に考えられる.