抄録
PSII-Hタンパク質は 植物やシアノバクテリアの光化学系II複合体に結合している6.5 kDaの膜貫通タンパク質で、植物ではN末端がリン酸化される。これまでに破壊株の解析からPSII-Hは系II複合体でのQAQB間の電子伝達、系II複合体の分子集合や安定性に関わることが報告されている。我々は好熱性シアノバクテリア Thermosynechococcus elongatus BP-1を用い、psbH遺伝子破壊株を作製した。破壊株は光独立栄養条件で野生株よりも増殖が顕著に遅くなった。細胞、チラコイドの状態での2,6-DCBQを受容体とする系II複合体の酸素発生活性は、野生株の半分であった。陰イオン交換カラムを用いて系II複合体を分画したところ、野生株では主に二量体として回収されたのに対し、破壊株では二量体がほとんど消失し、野生株では小さかった2つのピークが大幅に増加していた。1つは表在性タンパク質 (33kDa, cytC550, 12kDa) を失い、酸素発生活性をもたない単量体の系II複合体であり、他方は表在性タンパク質も活性も保持した単量体の系II複合体であった。また破壊株の系II複合体では単量体、二量体に関わらず、PSII-Xが消失していた。以上の結果から、PSII-HはPSII-Xと表在性タンパク質の結合した二量体の系II複合体の安定化にかかわることが示唆された。