抄録
光化学系II(系II)D1蛋白質前駆体はC末端延長部分がプロセッシングを受け成熟化するが、切断により露出するC末端アラニン(A344)のカルボキシル基が酸素発生系Mnクラスターの配位子となっていると提唱されている。 本研究ではA344をGly、Val、Aspに置換したSynechocystis sp. PCC6803変異株(A344G、A344V、A344D)を作製し、変異がMnクラスターの構造と機能に与える影響を検討した。変異導入のためのホスト株はSer345をstopコドンに置換して延長配列を予め欠失させ、さらにHisタグをCP47C末端に付与してある。光独立栄養条件(50 μE m-2s-1)では、A344G、A344 V株はS345-stop株とほぼ同等の、A344D株はかなり遅い生育速度を示し、それぞれの細胞はS345-stop に対し90、 90、40%の酸素発生活性を示した。光強度を200 μE m-2s-1に上げると、A344G、A344Dは光独立栄養的に生育できなくなった。A344G、A344D両株は熱発光Q-バンド(S2QA-)、B-バンド (S2QB-)ともにピーク温度がS345-stopに比べ5oC高温にシフトしていた。変異株からNiカラムにより単離した系IIコア標品のポリペプチド組成は変異によって影響を受けていなかった。以上の結果はA344のGly、Aspへの置換はMnクラスター自身もしくはその近傍に直接影響を与えることを示唆している。現在、変異がMnクラスターの構造に与える影響を検討するためEPR測定をおこなっており、その結果もあわせて報告する。