抄録
光合成酸素発生反応の触媒中心は光化学系IIに存在する4核Mnクラスターであるが、その詳細な構造は不明である。本研究ではMnクラスターの推定上の配位子の一つD1タンパク質のC末端Ala344をGly, Val, Aspで置換したSynechocystis sp. PCC 6803変異体(A344G, A344V, A344D)から調製した光化学系IIコア標品について光誘起S2/S1赤外吸収差スペクトルを測定し、変異がMnクラスターに与える影響を検討した。すべての変異体でカルボキシレート配位子由来のバンド (1600 - 1300 cm-1)が、野生株と比較して顕著に異なっていた。また、A344Gでは1112(-) cm-1のバンドが強く出現し、A344VではアミドI, II領域にも大きな変化が見られた。以上の結果は、C末端アミノ酸側鎖のわずかな違いがMnクラスター周辺のタンパク質、アミノ酸配位子の構造に大きな影響を与えている事を示している。また、Alaと構造的に最も類似したGly置換体(A344G)において、Mn-O-Mn骨格振動に帰属されている606(+)/625(-) cm-1のバンドに顕著な変化が見られ、Mnクラスター自身の構造に変化が起こっている事が示唆された。