抄録
グリセリン処理ササゲ下胚軸を用いた引っ張り試験から、細胞壁の力学的パラメーターである壁展性(φ)と臨界降伏張力(y)がpHに応じて変化し、細胞壁伸長を制御することが示されている。加熱処理の影響からy調節にはタンパクが関与するが、φ調節にはタンパクが関与しない可能性が考えられた。さらに、EDTA処理やCa2+の添加によりφはpHに依存せずに変化することから、φ調節にCa2+が関与する可能性が示唆された。そこで、Ca2+と結合する細胞壁成分であるペクチンの生化学性状をin vitroで検討し、φの変化との相関を検証した。ササゲ黄化芽生えの下胚軸を伸長域、中間伸長域、既伸長域に分けペクチンを調製した。ゲルろ過により、ペクチン画分が1,600と180 kDaの二つの多糖成分から構成されることを明らかにした。1,600 kDaの成分は伸長域で最も多く、中間伸長域、既伸長域の順に減少した。pH 6.2でペクチン画分にCa2+を加えると、1,600 kDaのピークは3,600 kDaの位置にシフトしたが、EDTAの添加により3,600 kDaのピークは1,600 kDaにもどった。この間180 kDaの成分に大きな変化はなかった。pHを4.0に低下させても同様の変化が見られることから、Ca2+によるペクチン架橋がpH変化により可逆的に調節され、φ調節に関る可能性が示された。