抄録
細胞壁タンパク質のエクスパンシンとイールディンは、それぞれ壁展性(φ)と臨界降伏張力(y)の調節を介して伸長に伴う細胞壁伸展制御に寄与すると考えられている.しかし、それぞれの実験解析は、植物材料、試料調製法および解析法が全て異なり、未だ共通の場で論じられていない.そこで、エクスパンシン発見の材料であるキュウリ下胚軸で、グリセリン処理中空胚軸切片(GHC)を用いた細胞壁の降伏伸展特性解析を行い、壁伸展制御に対する壁降伏パラメータφ及びyの関与を調べた.
壁伸展速度の張力依存性から求まるキュウリの壁伸展の特性曲線は、ササゲと同様にyの存在とそのpHに依存する変化を明確に示し、同時に、yを越す張力下のφも著しくpHに依存して変化することを示した.何れも酸生長説を裏付ける結果であった.定張力下におけるGHCの壁伸展(クリープ)のpHによる制御には、壁展性に加え、臨界降伏張力の関与が明らかとなった.熱処理(boiling 15sec)によりpHに依存するGHC のy調節能は失われたが、φの調節能はほとんど影響を受けず、また、金属イオン等のクリープ阻害剤も壁伸展の特性曲線にそれぞれ特徴のある影響を及ぼした.以上の結果をもとに、キュウリの壁展性φは壁タンパク質の調節を受けないこと、特性曲線から推定した伸長生長時の壁伸展調節様式の特徴等について考察する.