抄録
緑色硫黄細菌Chlorobium limicolaのアンテナ複合体「クロロゾーム」は、光エネルギーを捉えて、光反応中心にエネルギー伝達している光捕獲装置である。またその構造は、バクテリオクロロフィルc (BChl c)異性体混合物の高次会合体から成ることが知られている。我々は、菌体からBChl cを抽出して自己会合させたモデル系BChl c会合体について、固体NMRおよび電子吸収分光を用いて、基本的な累積構造が二量体で説明できることを示した。また、クロロゾームでも同様の累積構造であることを示唆するデータを得ている。
固体NMR分光では数Åの近距離相互作用を、電子吸収分光では遷移双極子の遠距離相互作用を見ており、近距離から遠距離に至るまでの相互作用を統一的に検出することが出来ない。それに対して粉末X線回折法は、近距離から遠距離までの系中の繰り返し構造を反映した回折ピークが現れるので、この性質を用いることでマクロサイクルの相対的な位置関係、つまり二量体間の累積状況について検討することが出来る。また、モデル系BChl c会合体は二次元構造であり、クロロゾームはシリンダー状の螺旋構造であるという推測から、両者の明らかな違いを反映すると予想される。測定データに対するシミュレーションを行って得た両者の累積構造について報告する。