抄録
トリエン脂肪酸の生成酵素であるω-3脂肪酸不飽和化酵素をコードする FAD7 は、物理的傷害にともない局所組織におけるその発現が顕著に上昇する。われわれはこのような発現誘導が、FAD7 の転写活性の上昇と密接に連動していることを見出しており、FAD7 プロモーターとホタルルシフェラーゼ遺伝子の融合遺伝子 (FAD7-LUC) を導入した形質転換シロイヌナズナの系統確立を進めてきた。傷害ストレスに対する適応においては、トリエン脂肪酸を基質として合成されるジャスモン酸が、中枢的シグナル因子として機能していることが広く知られている。一方、ジャスモン酸に依存しない生理的応答も多数見出されており、傷害にともなう防御反応の発動には、少なくとも2つの独立したシグナル経路がかかわっているものと推察される。興味深いことに、傷害による FAD7 の発現誘導は、組織により異なったシグナル経路の支配を受けている。われわれはジャスモン酸に依存的、非依存的な両シグナル経路の分子的実体を解明するために、FAD7-LUC 導入植物を母株とした機能欠損突然変異体の単離を試みるとともに、既知の突然変異体やタグラインとの交配により、これらのシグナル経路を構成するタンパク質因子を同定することを目指している。本発表では FAD7-LUC 導入植物の系統確立に至るまでの経緯とともに、新規突然変異体やかけ合わせ系統の解析から得られた知見を報告する。