抄録
高等植物の葉緑体には、チラコイド膜結合型とストロマ可溶型の2つのアスコルビン酸ペルオキシダーゼアイソザイム(tAPXおよびsAPX)が存在する。シロイヌナズナの葉緑体型APXは各々独立したパラログ遺伝子として存在することから、両アイソザイムの発現調節はホウレンソウやタバコなどに見られる同一遺伝子からの選択的スプライシングとは明らかに異なるが、その詳細は明らかではない。そこで本研究では、シロイヌナズナの葉緑体型APXの発現調節機構を明らかにするため、培養細胞を用いて光条件下での応答を検討した。シロイヌナズナT87緑色懸濁培養細胞を定常条件下(50 μmol/m2/s)で培養後、暗適応およびO2発生が最大となる420μmol/m2/sの光条件下に移し、葉緑体型APXの経時変化を測定した。その結果、sAPXを含むオルガネラ可溶性画分のAPX活性は、暗条件下および光条件下のいずれの場合も変化が見られないが、tAPXを含むオルガネラ膜画分では、光条件下24時間までに約3倍の活性増加が認められた。イムノブロットの結果から、光条件下でのtAPXタンパク質レベルの増加が確認された。ノーザンブロットの結果、光照射後のsAPXおよびtAPX 転写量に変化は認められなかった。以上の結果より、シロイヌナズナtAPXは光により転写後調節を受けることが示唆された。