抄録
カラマツの不定胚は、細胞質に富む細胞から成る胚本体と液胞化した細胞が集まった胚柄という2つの異なる組織で構成されている。カラマツの不定胚形成は、培養初期の細胞密度の影響を強く受け、低細胞密度条件下で培養すると進行し、高細胞密度条件下で培養すると強く阻害される。また、高細胞密度で培養した培地(HCM)を回収し、低細胞密度培養時に添加すると、不定胚形成、特に胚柄の発達が阻害される。そこで、本研究では、このカラマツの不定胚形成を阻害する因子を培地中から精製し、同定することを試みた。HCMを出発材料とし、不定胚形成阻害を指標とするバイオアッセイにより、透析、酢酸エチルによる溶媒分画、ODS-カラムクロマトグラフィー、HPLCによって、順次分画、精製を行った。精製画分について、マススペクトロメトリー、1H-および13C-NMRによる構造解析を行ったところ、不定胚形成阻害の主要因子はバニリンベンジルエーテル(VBE)と同定された。VBEは、ウィリアムソン合成法により、バニリンとベンジルクロライドから合成した。VBEをカラマツの不定胚誘導時に投与したところ、不定胚形成、特に胚柄の発達が強く阻害された。このような結果から、カラマツを高細胞密度条件で培養すると、VBEが培地中に蓄積し、不定胚形成を阻害することが示唆された。