抄録
植物は硫黄欠乏にさらされると適応反応を示し、欠乏の度合いが軽度ならば見かけ上正常に生育することができる。筆者らは、硫黄栄養の供給を通常より減らして栽培した、見かけ上正常に生育しているシロイヌナズナのトランスクリプトームおよびメタボロームを解析することで、適応反応の全体像を明らかにしようとしている。これまでに短期的応答におけるジャスモン酸の関与の可能性などを明らかにしてきたが、制御ネットワークの解明のためには、外部環境の硫黄が欠乏してから植物の内部環境がその条件におけるあらたな平衡状態に達するまでの時系列データが必要であると思われる。
野生型シロイヌナズナを、硫酸イオン濃度1.5 mMの通常培地で約3週間栽培したのち、通常培地または硫酸イオンを含まない培地に移植して、3,6,12,24,48,168時間後にロゼット葉と根をサンプリングした。168時間後までの間にどちらの培地に移植した植物も見かけ上正常に生育した。マイクロアレイにより21,500遺伝子の葉と根における発現の変化を調べた。またフーリエ変換イオンサイクロトロンマススペクトロメトリー(FT-MS)により葉と根の非ターゲットメタボローム分析を、HPLCやキャピラリー電気泳動によりアミノ酸や糖、有機酸などのターゲット代謝物プロファイリングを行った。これらのデータに基づいて、硫黄欠乏に適応する機構について考察する。