抄録
陸棲ラン藻Nostoc commune(イシクラゲ)は広く地球上の陸地に分布し、数珠状に連なった細胞がゼリー層に包まれたコロニーを形成している。岩の表面のようなむき出しの環境に生息するため、定期的な乾燥に耐えて光合成機構を保持する仕組みをもつと考えられる。本研究ではN.communeの光合成活性の乾燥ストレス耐性について調べた。野外から採集したN.communeを、実験室で風乾し材料として用いた。光合成的酸素発生能は、クラーク型酸素電極を用いてCO2を最終電子受容体として測定した。乾燥したサンプルは光合成能を示さなかったが、水を与えると光合成能を示した。乾燥と水和を繰り返しても酸素発生能はほぼ100%に保たれた。乾熱オーブンを用いて乾燥させ重量変化を調べたところ、乾燥重量あたり約10%の水が取り除かれた。乾熱乾燥後、大気にさらすとすみやかに重量が回復した。乾熱オーブンを用いて強度の乾燥ストレス処理を行っても、約60%の酸素発生能が残存していた。ゼリー層が光合成活性の乾燥耐性に関与しているかどうかを調べるため、細胞とゼリー層を分離する手法を検討した。水和させペースト状にした後、目の粗いフィルターでろ過することで、ゼリー層と細胞を分画できた。ゼリー層を取り除いた細胞は光合成活性を示したが、風乾処理したところ、活性は著しく低下した。これらの結果は、光合成活性の乾燥耐性においてゼリー層が重要な役割を果たしていることを示している。