抄録
チョウマメの青色花弁に蓄積するポリアシル化アントシアニンであるテルナチン類の構造は,デルフィニジン3-(6''-マロニル)グルコシド-3',5'-ジグルコシド(テルナチンC5)を共通に持つ.このB環の水酸基を配糖化する3'位及び5'位グルコシル基転移酵素タンパク質(3'GT及び5'GT)をそれぞれ精製したところ,両タンパク質の生化学的特性は類似していた.そこで,精製した3'GTの内部部分アミノ酸配列を基にcDNA(CtBGT1)をクローン化して大腸菌で発現させた.組換えCtBGT1は,アントシアニンB環の3'及び5'位水酸基へ逐次グルコシル基を転移する3',5'位グルコシル基転移酵素(UA3'5'GT)活性を有していた.CtBGT1は447アミノ酸残基からなる分子量48,649のポリペプチドをコードし,アミノ酸レベルでの分子系統解析ではUF3GTファミリーに属していた.一方,機能的に最も近いエゾリンドウの3'GT(AB076697)との相同性は8%であった.CtBGT1転写産物は,デルフィニジン3-(6''-マロニル)グルコシドを花弁に蓄積する藤色花系統でも認められたが,コード領域内部に一塩基置換による停止コドンが存在していた.従って,テルナチン生合成における3'及び5'位の配糖化はCtBGT1遺伝子にコードされる新規な糖転移酵素UA3'5'GTによって触媒されると考えられる.