抄録
オキシリピン代謝経路の一つである脂肪酸α酸素添加酵素は、遊離脂肪酸のα位に一分子の酸素を添加し、α-ヒドロペルオキシ脂肪酸を生成する酵素である。脂肪酸α酸素添加酵素はタバコやシロイヌナズナを始めとした双子葉植物において、病原菌や酸化ストレスによって遺伝子レベルで発現誘導されることが知られているが、その生理的役割はまだ判然としない。一方、演者らは単子葉植物のイネに脂肪酸α酸素添加酵素と相同性の高い遺伝子があることを見い出し、組換えタンパク質として大腸菌発現させ、その酵素学的性質を報告した。今回、生理的役割解明の一環としてイネ脂肪酸α酸素添加酵素の発現様式を調べた所、双子葉植物のそれは主にサリチル酸経路を介して誘導されるのに対し、イネではサリチル酸でほとんど誘導されず、ジャスモン酸によってのみ顕著な活性誘導が認められた。イネ幼葉をイネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)に曝露した時、さらに、重金属イオン、メチルビオローゲンによる酸化ストレスを水耕栽培した播種後9日目のイネに処理した時にも脂肪酸α酸素添加酵素の誘導が見られた。これらの結果、本酵素の活性誘導は双子葉のそれに対し、シグナル伝達経路に違いはあるものの、酸化ストレスや病原菌曝露に対して強く誘導されるという同じ応答を示した。また、この脂肪酸α酸素添加酵素の誘導にはタンパクのリン酸化が正に制御していることが示唆された。