抄録
高等植物においては、光合成集光装置を構成するLHCタンパク質のChl結合部位を含む膜貫通領域と類似した配列を持つタンパク質をコードする様々なLhc類似遺伝子が存在し、それらの多くは強光条件に応じて発現が促進され、集光装置として働くのではなく光ストレスに対する防御を担っていると考えられている。単細胞緑藻クラミドモナスのLhc類似遺伝子を新たに4個同定し、細胞を弱光から強光条件に移した後のmRNA量の経時変化を調べた。1個の遺伝子はPSIIのLhc遺伝子と同様に強光に移して2-4時間までに減少しその後増加する傾向がみられた。一方、残り3個の遺伝子のmRNAは弱光下では低いレベルにあり、強光に移した後1時間程度をピークとする一過的な増加を示した。これらのうち2つはそれぞれ高等植物のELIPとHLIPと全体にわたってアミノ酸配列が類似していた。残りの1つの遺伝子は新しい種類のLHC類似タンパク質をコードすると思われる。この新奇Lhc類似遺伝子の強光応答性は調べた他の遺伝子に比べて著しく高かったことから、遺伝子発現の強光応答機構研究の良いモデル系になると思われる。この遺伝子のmRNA量は活性酸素処理によって大きく変化せず、その強光応答は光合成電子伝達系を阻害しても影響されなかった。電子伝達成分の酸化還元状態や活性酸素がこの遺伝子の強光応答の直接のシグナルとなっている可能性は低いと思われる。