抄録
DNA修復はゲノムを安定に維持していくために必須のプロセスであるが、高等植物のDNA修復、特に暗回復のメカニズムは不明な点が多い。私達はこれまでに高等植物のイネからDNA修復に関連する遺伝子群をゲノムプロジェクトの成果を利用しながら単離し、その機能を解析してきた。イネのDNA修復遺伝子のうちCPD photolyase, UV-DDB1, CSB, PCNA, RPA32, FEN-1, ORC1の発現パターンを解析したところ、CPD photolyaseは展開葉でも発現していたが、UV-DDBなどの暗回復のDNA修復遺伝子は展開葉ではほとんど発現せず茎頂や根端などの細胞分裂が盛んな組織で発現していた。Oligo DNA microarrayを用いてDNA修復遺伝子の発現パターンを網羅的に解析したところ同様の結果が得られた。in vivo DNA修復活性測定でイネの非分裂組織(葉)と分裂組織(根端)の光回復と暗回復を測定したところ、分裂組織では明暗の両条件でDNA損傷の減少したが、非分裂組織では明条件ではDNA損傷が減少したが暗条件ではほとんど減少しなかった。この結果は非分裂組織では光回復が主なDNA修復経路として働き、分裂組織ではヌクレオチド除去修復などの暗回復と光回復の両方が働いていることを示している。以上の結果からDNA修復遺伝子の発現が細胞増殖と密接に関連していると考えられる。