抄録
植物細胞の増殖には栄養状態が深く関わり、シロイヌナズナcyclin D遺伝子の発現はグルコースによってヘキソキナーゼをセンサーとする経路で植物ホルモンと独立に制御されている。Nucleolinは核小体に存在し、rRNA前駆体のプロセシングとアセンブリー、核外への輸送などに関わるリボソーム形成制御因子であり、動物や酵母ではその遺伝子発現は細胞増殖と強く関連している。シロイヌナズナのショ糖添加の6時間後までに顕著にmRNAが増加する遺伝子群の中では“タンパク質合成”に関わる遺伝子が高い割合を占め、約200の細胞質リボソームタンパク質(RP)遺伝子とともに酵母NSR1, GAR1と相同性の高いnucleolin遺伝子(AtNucl.-1)が含まれていた。AtNucl.-1や RP のmRNAはグルコースでも増加したが、2-デオキシグルコースには応答せず、ヘキソキナーゼセンサーに依存した糖シグナル系とは異なる。AtNucl.-1遺伝子破壊株では、rRNA前駆体中のプロセシングで除去される配列を持つRNAが野生型株に比べて2-5倍多く存在しており、野生型株に比べて根も地上部も生長が遅く、葉が細く、花茎が多く出現するなどの表現型を示した。また、AtNucl.-1遺伝子破壊株では多くのRP mRNAの糖に応答した変動が失われており、AtNucl.-1がRP遺伝子群の発現制御に関与する可能性が示唆される。