抄録
高等植物の葉緑体ストロマでは、光合成反応を効率的に行うために炭酸同化系をはじめとする酵素群が、葉緑体内の還元状態に応じて活性調節されている。葉緑体ストロマに存在する2種類のチオレドキシンは、光化学系から供給される還元力を利用して標的タンパク質のジスルフィド結合を還元することによって、その活性を調節する重要な役割を担っている。これまで、私たちは、高等植物の葉緑体ストロマにおけるチオレドキシンにより制御されるタンパク質の全体像を明らかにすることを目指して、チオレドキシン変異体の固定化担体を用いて網羅的に標的タンパク質を捕捉する方法を開発し、新規標的タンパク質を同定し、その酸化還元によって標的タンパク質がどのように制御されるかを研究してきた。
次に、葉緑体でチラコイド膜を介してストロマとは隔てられているチラコイドルーメンでの酸化還元制御に焦点を絞り研究を開始した。チラコイドルーメン側には、チオレドキシン様タンパク質HCF164が存在することが知られているが、その役割に関してはほとんど知見がない。今回は、HCF164の生化学的性質を明らかにすることに加え、その酸化還元状態のモニタ、このチオレドキシン様タンパク質により酸化還元制御される標的タンパク質の探索を行った結果を報告し、その機能を考察する。