抄録
チオレドキシン(Trx)は、高等植物の葉緑体や原核光合成生シアノバクテリアでは、光化学系の電子伝達反応によって還元される。還元型Trxは標的となる蛋白質を還元し、その活性を調節したり、酸化物の還元に還元力を供給している。私たちは、Trxの反応中心が持つ2個のCysの一方をSerに置換した変異体を用い、ラン色細菌 Synechocystis sp. PCC6803のTrxの標的蛋白質を網羅的に捕捉した。昨年度の年会で、得られた標的蛋白質候補の中で主要なSLR1198とSLL1621の2種類のペルオキシレドキシン(Prx)ホモログについて、実際これら2つのの蛋白質はTrxによって還元され、また、Trxの還元力を利用して過酸化水素を還元することを報告した。
両蛋白質の細胞内での生理的な役割を明らかにするために、SLR1198, SLL1621を発現しない変異体(Δslr1198, Δsll1621)を作成し、これらの生育状況や活性酸素に対する応答を調べた。Δslr1198は活性酸素を与えたとき、菌の生育が阻害された。一方、Δsll1621は何もストレスを与えない条件でもほとんど生育できず、細胞内での著しい活性酸素の上昇が見られた。
これらの事実は、TrxとPrxで構成される活性酸素除去システムがシアノバクテリアの生育に重要な役割を果たしている事を示している。