抄録
糖リン酸を主としたリン酸含有化合物のイオンクロマトグラム法による網羅的解析を可能にする手法として、チタニアカラムによるリン化合物の特異的分離-イオン交換分離-パルスドアンペロメトリー(酸化還元能の)検出の組合せ法を確立した。本法をシロイヌナズナ植物体に適用し、種々のリン酸栄養条件下における糖リン酸濃度の変動を測定するとともに、リン酸代謝の突然変異体として知られるpho1, pho2変異体を用いて、糖リン酸代謝がどのような影響を受けるか比較検討した。ここで測定した糖リン酸は二つのグループに分けられ、一つのグループでは植物体の無機リン酸濃度に比例した形で細胞内濃度が変動するが、もう一つのグループではそのような関係がみられず、むしろ無機リン酸濃度と反比例するように振る舞うことを見出した。さらに、突然変異体のデータと比較したところ、最初のグループに属する糖リン酸は正常植物体でも突然変異体でも同様の振る舞いをするが、二番目のグループに属する化合物は、無機リン酸の濃度変動との関係が、突然変異体では正常植物体と異なっていた。これら糖リン酸濃度の変動から、植物体の可能なリン環境認識機構について議論する。