抄録
アサガオの獅子(feathered ; fe)突然変異体は江戸時代の文化文政期に起源し、その表現型は、植物体全体がうねり葉は裏側を表にしたように抱える。また花冠は裂け、しばしば折り返されて風鈴状になる。実際、組織の観察において葉の裏側の表皮で気孔の数が減少するなどの向軸化が観察された。獅子の体細胞復帰変異体を材料にトランスポゾンディスプレイ法の一種であるSTD法をもちいて獅子突然変異の原因遺伝子を単離した。獅子遺伝子は、植物固有の転写因子であるGARPドメインを持つタンパク質をコードし、シロイヌナズナのKAN1遺伝子ともっとも高い相同性を持っていた。そのため獅子もKANと同様に側生器官の裏側で発現し、背軸側の特徴を決定していると予想される。転写産物の解析の結果、変異体では野生型に比べて転写量の増加や、挿入しているTpnの内部でスプライシングされたと考えられる長い転写産物がみられた。これらの結果が獅子変異体が優性であることの原因かもしれない。ゲノム構造の解析から獅子突然変異は単一起源であることが示唆されるが、系統によって表現型がかなり異なっている。また、交配実験からも強い変異体は2つ以上の変異による多重変異体である証拠が得られており、もとの獅子突然変異に加えて表現型を強めるような新たな突然変異をもっていると考えられる。