抄録
植物におけるクロマチン構造と遺伝子発現制御の関係を理解するため、シロイヌナズナ植物体と培養細胞を用い、HSP18.2、ヒストンH4、PCNA、V-ATPaseとADH遺伝子について、プロモーター周辺のクロマチン構造の凝集度合いをDNase I感受性として評価した。その結果、これらの遺伝子の発現の有無に関わらずDNase I感受性は遺伝子間、さらに葉と培養細胞間でほぼ一様であったが、ADH遺伝子以外の各遺伝子プロモーター内に局所的なDNase I高感受性部位が葉と培養細胞において同様な位置に見出された。次に、これら高感受性部位を調べるため、熱処理の有無によりHSP18.2遺伝子の転写活性・不活性な状態にある培養細胞を用いDNase I感受性とヌクレオソーム構造を解析した。その結果、転写活性化に伴いDNase I高感受性部位が下流に広がること、またヌクレオソームのポジショニングがその近傍で変化することが明らかになった。さらに、ADH遺伝子プロモーターについては培養細胞では高感受性部位が検出されたが葉では見出されなかった。以上の結果と、ABAによりADH遺伝子は培養細胞では誘導されるが葉では誘導されないことを考え合わせると、これら高感受性部位の存在はヌクレオソーム構造を介して転写活性化因子のプロモーターDNAへの接近性を制御することにより、転写制御に機能していることが示唆された。