抄録
我々はシロイヌナズナのMDAR遺伝子が、転写開始点を使い分けてミトコンドリア(Mt)型と色素体(Pl)型酵素を作り分けている事を報告した。この仕組みの一般性を調べるため、イネのMDARの解析を行った。イネには5つのMDAR様配列があり、そのうち1つはN末端に色素体移行シグナルと予測される伸長領域を持っていた。この遺伝子は、完全長cDNA解析で発現が確認されている。Mt型と予測される配列の発現は報告されていない。今回我々は、上記のPl型と思われる遺伝子のさらに上流に、シロイヌナズナと同様のエキソン・イントロン構造を保ったまま15アミノ酸を付加した読み枠が組める事を見い出し、RT-PCR法でin vivoでの発現を確認した。推定Pl型のcDNAと比較したところ、5'UTRでのスプライシング受容部位が異なり、アミノ酸の延長が可能となっていた。これらの事から、イネでは択一的スプライシングにより複数種のmRNAが作られていることが分かった。延長された部分を含む領域はMt移行シグナルに特徴的な構造をとると予測された。新規の読み枠および推定Pl型のN末端伸長領域とGFPの融合タンパク質は、それぞれMtおよびPlへ移行した。1遺伝子由来のMDARがMtとPlへ二重移行する現象がイネでも保存されている可能性が示されたが、それをもたらすmRNAの作り分けにはシロイヌナズナと異なる仕組みを用いていた。