抄録
オルガネラから核へのDNA転移は、従来予想されたよりも遙かに高頻度で生じ得ることが最近明らかになってきた。しかしながら転移したDNA断片が核内でどのようにプロセスされていくのかはよくわかっていない。そこで、本研究では、イネの核ゲノム中に存在する葉緑体DNAを、ゲノム情報を用いて包括的に解析した。BLAST プログラムを用いてイネ核ゲノム中に存在する葉緑体DNA様配列を検索したところ、700個以上の部位で挿入が見いだされた。これら葉緑体様DNA断片が核に転移した時期をSNPsの数から推定したところ、その大半が100万年以内に葉緑体から転移してきたこと、さらに、転移した断片の多くは核ゲノムから急速に失われていったこと、が示唆された。またこれらの断片では重複、逆位、欠失、葉緑体ゲノム以外のDNA配列の挿入といった構造上での著しい変化が生じていた。葉緑体DNAの取り込み頻度はペリセントロメア領域で高かった。核ゲノムは、葉緑体ゲノムを活発に取り込み、それらをシャフリングし、さらには核から排斥する結果、定常的な「葉緑体から核へのDNAの流れ」を作り出していると考えられる。