抄録
植物が病原菌に感染した場合、活性酸素(O2-、H2O2)の生成を端緒とした一連の抵抗性反応が生じる。O2- の生成はNADPHオキシダーゼにより行なわれるが、その活性調節機構の全容は明らかにされていない。我々は、本学会2003年度年会において、NADPHオキシダーゼの活性調節にトリエン脂肪酸(TA)であるリノレン酸(LA)が関わることを報告した。TAは、生体膜脂質を構成する主要な不飽和脂肪酸である。シロイヌナズナにおいて、TA合成を触媒するω-3脂肪酸不飽和化酵素は、小胞体型FAD3、葉緑体型FAD7、FAD8の3つが同定されている。葉緑体型が欠失したfad7fad8変異体において、Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000 (avrRpm1)(Psm (avrRpm1))に対する抵抗性反応を調べた結果、野生株や小胞体型が欠失したfad3変異体と比較してH2O2の生成が低下した。Psm (avrRpm1) 接種後の野生株において、1時間から遊離したLA含量が増加し、H2O2が生成される時間と一致した。さらに、葉緑体膜脂質由来のTAが、細胞膜や小胞体膜に存在する脂質に転移することを示唆する結果を得た。これらの知見から、葉緑体膜から遊離したLAが細胞膜に局在するNADPHオキシダーゼの活性調節に関わることが考えられた。