抄録
二酸化硫黄(SO2)は化石燃料の燃焼によって発生する主要な大気汚染である。植物の葉によって吸収されたSO2はアポプラストの水層に溶解し、亜硫酸イオン(SO32-)が生成する。亜硫酸イオンには強い細胞毒性があり、RuBisCOの拮抗阻害、酵素のチオール基の化学修飾により、炭酸固定系などの代謝阻害を引き起こす(直接毒性)。亜硫酸イオンは葉緑体に侵入し、光化学系でSulfite-mediated chain reactionにより、自身は比較的無害な硫酸イオンに酸化されるが、その過程で大量の活性酸素を生成し、植物に強い障害を及ぼす(間接毒性)。ここでは、亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化させる亜硫酸酸化酵素cDNAをラット肝臓からクローニングし、植物に遺伝子導入し、二酸化硫黄無毒化植物の作出を試みた。
方法:ラット肝臓から亜硫酸酸化酵素の全長cDNAを単離し、植物高発現ベクターpBE2113にサブクローニングし、アグロバクテリウムを介して、タバコに遺伝子導入した。細胞質発現型と葉緑体発現型(RuBisCO small subunitのtransit peptide遺伝子を利用)の2種の形質転換体を作出した。
結果と考察:形質転換体のSOX活性を測定したところ、コントロールと比較して高い活性が得られた。また、亜硫酸耐性を検定したところ、コントロールの致死濃度以上の濃度下においても、形質転換体は生存した。